面会交流の可否

特に重視すべき事情6分類

子や双方親の安全・状況・関係など

面会交流の可否を裁判所の調停で検討するうえでの方法や考慮事情について、東京家庭裁判所の裁判官・調査官で構成する面会交流プロジェクトチームが、調停の運営モデルとして提案を公表しています(令和2年6月発行「家庭の法と裁判」掲載)。

そこでは、特に重視すべき中心的な事情として、以下の6分類のカテゴリーが挙げられています。

(1)子・同居親・別居親の安全
(2)子の状況
(3)同居親・別居親の状況
(4)同居親・別居親と子との関係
(5)同居親・別居親(親同士)の関係
(6)子・同居親・別居親を取り巻く環境


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検討の方針・方法

上記の調停運営モデルは、まず、面会交流に関して調停で検討する方針・方法について、要点としては次のような内容になっています。

  1. ニュートラル・フラットな立場(同居親及び別居親のいずれの側にも偏ることなく、先入観を持つことなく、ひらすら子の利益を最優先に考慮する立場)で臨む。
  2. 子の利益を最も優先し、「直接交流又は間接交流を実施することにより子の利益に反する事情があるかどうか」について、ニュートラル・フラットな立場で、当事者双方から、主張や背景事情を丁寧に聴き取り、その聴取結果を具体的かつ総合的に踏まえ、子の利益を最も優先して考慮するとの観点から慎重に検討していく。

なお、そこにいう「ニュートラル・フラットな立場」について、面会交流の原則実施を前提とするものではないという裁判所の考え方を確認するという趣旨の説明が加えられています。
 

特に重視すべき各事情

そして、上記の調停運営モデルでは、特に重視すべき中心的な事情として6分類のカテゴリーに関する事情が挙げられています。

そのカテゴリーが、上にも記載した以下の6つです。
(1)子・同居親・別居親の安全
(2)子の状況
(3)同居親・別居親の状況
(4)同居親・別居親と子との関係
(5)同居親・別居親(親同士)の関係
(6)子・同居親・別居親を取り巻く環境

それら事情から課題を明確化し、適宜重みづけしながら、当事者と共有・調整し、その結果の分析・評価等を繰り返していくとされています。

上記(1)~(2)それぞれに関する事情は以下のとおりです。

(1)子・同居親・別居親の安全

児童虐待のおそれ、子の連れ去りのおそれ、父母間のDVなどに関する考慮要素です。
調停運営において最も優先度が高く、確実に把握して考慮すべきものとされています。

(2)子の状況

家庭、学校等での適応を含めた子の生活状況、子の年齢や発達状況、心身状況、意向・心情などです。
子の利益を検討するうえで欠かせない事情となります。

(3)同居親・別居親の状況

それぞれの心身状況、生活状況、経済状況、交流についての考え方などに関する事情です。
合理的な理由なく面会交流を制限する同居親の言動の有無、別居親の交流時の不適切な対応のおそれの有無、交流の実施が同居親に与える影響の有無なども含まれます。

(4)同居親・別居親と子との関係

別居前から現在に至るまでの関係であり、これまでの別居親と子との交流状況なども含まれます。

(5)同居親・別居親(親同士)の関係

それぞれの心情を前提とした父母の葛藤状態の程度、子の前での父母の言い争いの有無・その内容などの事情であり、他の事情とも密接に関わります。
離婚の成否や紛争の進捗状況、不貞・金銭問題の有無やその争いの程度など他の争点を含めた父母間の対立状況に関する事情も併せて把握する必要があるとされています。

(6)子・同居親・別居親を取り巻く環境

きょうだい関係、同居親の再婚、同居親の父母をはじめとする親族の影響等に関する事情などです。


以上の検討によって、次のいずれかに進みます。


直接交流又は間接交流によって子の利益に反する事情があるといえる場合

この場合、以下の検討・調整をします。

  • 直接交流、さらには間接交流まで含んだ交流を禁止する必要があるか
  • 禁止するのであれば期間を定めた交流の禁止で足りるのか。
  • 期間を定めて禁止するのであればどの程度の期間とすべきか。
  • その期間が経過した後の交流はどのうような方法によるべきか等。

 

直接交流又は間接交流によって子の利益に反する事情があるといえない場合

この場合、以下の検討・調整に進みます。

  • 直接交流が適当であるといえる場合は、その在り方(回数、頻度、日時、場所、方法、第三者機関の利用の有無、形態、加えて間接交流を実施するかどうか、実施する場合はその方法等)。
  • 直接交流が適当であるといえない場合は、間接交流の在り方と、直接交流に移行する段階的実施の適否など。

間接交流(間接的面会交流)

間接交流(間接的面会交流)とは、非監護親(別居親)が子どもと直接会うのでなく、手紙・電話・メール・ウェブ画像つきの通話などによって交流することです(写真を使ったりプレゼントを贈ったりすることもあります)。

これとの対比で、直接会う面会交流を直接交流(直接的面会交流)といいます。
 

第三者機関を利用した面会交流

面会交流を行ううえで父母が連絡をとったり子どもを引き渡したりする必要があるけれど、両者の確執が深く、それらが困難と認められるなどの事情があるときに、面会交流を有料で支援する第三者機関を利用する方法です。

双方がその第三者機関と、面会交流の形態などに関する協議・取り決めをすることになります。


原則実施論的運営への批判を受け

平成20年代後半頃、裁判所では、面会交流について「原則実施論」をとっているかのような運営が広く見受けれらました。

しかし、面会交流を実施することが子の利益になるという一つの方向性を前提とはせず、実施する場合と実施しない場合のいずれが子の利益になるかを検討するのが本来の姿でした。

上でご紹介した東京家庭裁判の面会交流プロジェクトチームによる調停運営モデルは、「同居親に対する十分な配慮を欠いた調停運営が行われたことがあったようであり、批判がされてきた」として、「新たな運営モデル」として提案されたものです(令和2年6月発行「家庭の法と裁判」掲載)。



このページの筆者弁護士滝井聡
このページの著者

 弁護士 滝井聡
  神奈川県弁護士会所属
    (登録番号32182)