親権者の監護権・財産管理権

監護権・財産管理権は義務を伴う

親権は、未成年の子に対する「身上監護権」と「財産管理権」を内容とするものとされています。

しかし、これらは短い言葉で表現したものであり、正確には次のとおり、身上監護・財産管理とも権利のみでなく義務を伴う内容となります。

  • 身上監護の権利義務(民法820条)
  • 財産管理・法定代理の権利義務(民法5条・824条・791条3項・797条1項)

離婚における親権争いは、父母のどちらがこれら権利を取得し義務を負うかの争いです。

それぞれの権利義務の内容について、ご説明します。


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身上監護の権利義務について

ここにいう身上監護とは、一人前の社会人となるよう子どもを監護し教育することであり、それは、子の利益のためにすることです。

民法820条が総括的・原則的規定として、「親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。」と定めています。

このうち「子の利益のために」という文言は、子の監護・教育の本来的な目的ですが、平成24年4月1日施行の民法改正で盛り込まれ明文化されました。

体罰・虐待の禁止

子の監護・教育の方法・内容の例示として、民法は、「子の人格の尊重等」(821条)、「居所の指定」(822条)、「職業の許可」(823条)という規定を設けています。

このうち民法821条は、親権者が子を監護・教育するにあたり、「子の人格を尊重するとともに、その年齢及び発達の程度に配慮しなければならず、かつ、体罰その他の子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動をしてはならない。」と定め、令和4年12月16日に施行されました。

それと同時に、親による子への虐待を正当化する口実になっていると指摘されていた、親権者による懲戒権の規定が削除されました。

このように、法律上、親権者による体罰や虐待の禁止が示されいます。


財産管理・法定代理の権利義務について

未成年者は自己の財産を管理するのに十分な能力をもちません。

そこで、保護者である親権者が、未成年の「子の財産を管理」し、かつ、子の「財産に関する法律行為についてその子を代表」(代理)する権限もつこととされています(民法824条本文)。

これらも、親権者の権利であるとともに義務でもあります。

子の財産を管理とは

上記民法824条本文にいう「子の財産を管理」とは、財産の保全(たとえば家屋の修理)、財産の性質を変えない範囲の利用(たとえば家賃を得るための賃貸)、改良(たとえば家屋の増築)を目的とする一切の事実上および法律上の行為をいいます。

財産管理の目的の範囲内で処分行為をすること(たとえば腐敗・変質のおそれのある物や値下がり傾向にある株式の売却)も、財産管理に含まれます。

子の財産に関する法律行為とは

上記民法824条本文にいう子の「財産に関する法律行為」とは、子の財産上の地位に変動を及ぼす一切の法律行為が含まれます(売却、贈与、第三者のための地上権の設定、借財、抵当権の設定など)。

なお、その法律行為について親権者がその子を「代表」すると規定されていますが、これは「代理」と同義で、すなわち親権者が法定代理人になるということです。

本人の同意を必要とする場合

未成年の子の行為を目的とする債務を生ずべき場合、財産に関する限り親権者は代理権を有しますが、その子本人の同意が必要となります(民法824条ただし書き)。

ここにいう「子の行為」とは、労務提供のような事実行為(作為のみならず不作為・受忍を含む)を指し、法律行為は含まないとされています。

親権者の同意権

以上は親権者による財産管理や代理行為のことですが、このほか、子自身が法律行為をする場合、親権者は同意を与える権限をもち、子はその同意を得なければならないとされています(民法5条1項本文)。

その同意がない子の法律行為は、取り消すことができます(民法5条2項)。

ただし、以下の各行為については、未成年の子であっても親権者(法定代理人)の同意なしですることができます(民法5条1項ただし書き・3項・6条1項)。

  • 子が単に権利を得、又は義務を免れる法律行為
    • (例)負担のない贈与を受ける契約(民法549条)
  • 法定代理人が目的を定めて処分を許した財産について、その目的の範囲内における処分
  • 法定代理人が目的を定めないで処分を許した財産の処分
    • (例)小遣い銭
  • 営業を許された未成年者の営業に関する行為

親権争いに影響も

以上で述べた身上監護・財産管理の各権利を適切に行使し、各義務を適切に履行できるかは、親権争いにも影響しうるものと考えられます。

親権争いに関しては、「親権」ページの「親権者決定の流れ」の欄および「親権者指定の手続」ページでご説明していて、各ページへは以下から移動できます。


関連法令規定

以上の内容に関連する法令の規定のうち主なものを掲載します。

民法820条(監護及び教育の権利義務)
親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。

民法821条(子の人格の尊重等)
親権を行う者は、前条の規定による監護及び教育をするに当たっては、子の人格を尊重するとともに、その年齢及び発達の程度に配慮しなければならず、かつ、体罰その他の子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動をしてはならない。

民法822条(居所の指定)
子は、親権を行う者が指定した場所に、その居所を定めなければならない。

民法823条(職業の許可)
1項 子は、親権を行う者の許可を得なければ、職業を営むことができない。
2項 親権を行う者は、第6条第2項の場合には、前項の許可を取り消し、又はこれを制限することができる。

民法5条(未成年者の法律行為)
1項 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
2項 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。
3項 第1項の規定にかかわらず、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする。

民法6条(未成年者の営業の許可)
1項 一種又は数種の営業を許された未成年者は、その営業に関しては、成年者と同一の行為能力を有する。
2項 前項の場合において、未成年者がその営業に堪えることができない事由があるときは、その法定代理人は、第4編(親族)の規定に従い、その許可を取り消し、又はこれを制限することができる。


このページの筆者弁護士滝井聡
このページの著者

 弁護士 滝井聡
  神奈川県弁護士会所属
    (登録番号32182)